共創は「始める前」の設計で、ほぼ決まる ― 思いを契約書にして“凍結保存”するという考え方 ―

1.はじめに

起業家同士が出会い、「この人となら、何か一緒にできそうだ」
そんな直感から始まる共創は少なくありません。

本記事でいう「共創」とは、協業・コラボレーション・事業提携などを含めた、起業家同士が力を持ち寄って新たな価値を生み出そうとする取り組み全般を指しています。

共創は、一人、一社では生み出せない価値をつくる大きなチャンスです。
一方で、実務の現場では、

  • 途中で話が止まってしまった
  • なんとなく気まずくなって終わった
  • もう一緒にやることはないと思っている

といった声も、決して珍しくありません。

しかも、その多くは、裁判や契約違反といった分かりやすい法的トラブルではなく、当事者同士の認識のズレから生じています。

 

2.共創がうまくいかなくなる本当の理由

共創がうまくいかなくなる原因は、能力や熱意の不足であることはほとんどありません。

実務を見ていると、多くの場合、問題の正体は起業家同士の「前提」や「期待値」のズレです。

  • そこまでやるとは思っていなかった
  • そういう前提だとは考えていなかった
  • 想定していた負担感と違ってきた

こうしたズレは、共創を始めた直後ではなく、実務が動き始めてから表に出てきます。
そして一度ズレが生じると、感情も絡み、修正は簡単ではなくなります。

 

3.なぜ「始める前」が一番大切なのか

共創を始める前は、起業家同士の利害が一致しています。

  • 一緒にうまくいかせたい
  • 相手を信頼したい
  • 前向きな話ができる

このタイミングは、最も率直に話ができる貴重な時間です。
ところが、共創が動き始めると、

  • 作業量や負担が見えてくる
  • 想定外の対応が増えてくる
  • 本音を言うと関係が悪くなりそうで黙ってしまう

利害が動き始めるほど、人は本音を言いにくくなります。
だからこそ、共創は「始める前」にどこまで話せたかが、その後を大きく左右します。

 

4.共創の前提は“凍結保存”しておく

共創のトラブルを見ていると、後から起きる問題の多くは、「どちらが正しいか」という話ではありません。
多くの場合、利害関係が変わったことで、同じ出来事の見え方が変わっているだけです。

  • 当初は気にならなかった負担が重く感じられる
  • 想定していた優先順位が現実と合わなくなる
  • 「そこまでやるつもりではなかった」という感覚が生まれる

これは、誰にでも起こり得ることです。

だからこそ重要なのは、利害が一致していた「共創前」の状態を、後から振り返れる形で残しておくことです。
私はこれを、「思いを凍結保存しておく」と表現しています。

 

5.共創前の7つのチェックポイント

実務の現場を見ていると、共創がうまく続かなくなる場面では、前提や期待値が、当事者の間で少しずつズレていくことが多くあります。

共創を始めた当初は問題にならなかったことが、実務が動き始め、利害や状況が変わるにつれて、違和感として表に出てくるのです。

だからこそ重要なのは、利害が一致している段階で、自分たちが何を大切にし、どこまでを共通認識として持っているのかを、一度きちんと言葉にしておくことです。

その際に意識しておきたい視点は、大きく分けると、次のような7つほどに整理できます。

  • 共創の前提となる考え方に関する視点
  • 成果やアウトプットの捉え方に関する視点
  • 情報やノウハウの扱い方に関する視点
  • それぞれの関わり方や責任の考え方に関する視点
  • お金やコストの捉え方に関する視点
  • 利益やリターンの考え方に関する視点
  • 途中で方向転換や終了をする場合の考え方に関する視点

これらはすべて、起業家が どのような思いでこの共創に臨んでいるのか を映し出すものです。

この「思い」を、利害が一致している段階で言語化し、そして 契約書という形で凍結保存しておく。
それが、共創を安定させるための、最も実務的で確実な方法だと考えています。

 

6.契約書は信頼を守るための記録

契約書というと、トラブルが起きたときのためのもの、相手を縛るためのもの、というイメージを持たれがちです。
しかし、共創における契約書の本質は、争うための道具ではありません。

利害が相反する状況が生じたときに、「この共創を始めたとき、自分たちは何を大切にしていたのか」を、冷静に確認するための記録です。
言い換えれば、契約書は信頼を守るための“立ち戻り先”でもあります。

思いが言語化され、凍結保存されているからこそ、感情論に流されにくくなり、話し合いを再開しやすくなります。

 

7.おわりに

共創の成功は、運や相性だけで決まるものではありません。
うまくいっている共創に共通しているのは、始める前に、きちんと言葉を交わし、思いを書面で残しているという点です。

この先の話をもう少し詳しく聞いてみたい方は、2月28日(土)に開催されるセミナーで、実例やワークを交えながらやさしく、分かりやすく解説します。

共創を始める前に、何を、どこまで整理しておけばよいのか。
その考え方を、知的財産の専門家と「共創」して実務目線でお伝えする予定です。

このコラムは協議会メンバーが執筆しています。
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