契約書のない取引の危険性(その場のノリだけで進めない)

1.はじめに

起業家の方からのご相談で多いのが、仕事をしたのに然るべき代金が請求できないというお悩みです。
このケースで、「取引の際に契約書(注文書、発注書等含む)を取り交わしていますか?」とおたずねすると、ほとんどのケースで「No」という返答があります。
なぜ、契約書等のない取引の危険性と対処法について解説します。

2.事例

商品のロゴのデザインの取引での事例で考えてみましょう。

【事例】
メーカーの経営者(依頼者)とデザイナーとが展示会で出会い、その後の懇親会で意気投合しました。

デザイナーから依頼者に
「商品のロゴのデザインをさせてください」
「少しの制作費と、もしその商品が売れたら『成功報酬』をいただければそれでいいですよ」
といったようなやり取りが行われ、デザイナーがロゴを制作しました(契約書なし)。

懇親会で話を聞いたコンセプトに沿ってロゴのデザインを行い、納品を行ったところ、依頼者からは「こんな立派なロゴを作ってもらって、有難い!」と感謝の言葉が。

そこで、デザイナーは依頼者に「少しの制作費」の請求をしたところ、
「君(デザイナー)がデザインさせてくれと言うから制作させてあげたんじゃないか!」
「商品が売れてもいないのに、代金を支払う余裕などウチにはない!!」
「懇親会で『成功報酬』と言っていたじゃないか!!」
と依頼者に激怒されてしまいました。

3.「その場のノリ」で決めない

一番の問題点は、懇親会のその場のノリだけでもって、ロゴの制作を進めてしまったことです。

デザイナーの立場で見れば相応の制作費であっても、依頼者側から見れば根拠のない請求とうつってしまうことが、上記のようなトラブルの根本原因と考えられます。

ボタンの掛け違いを防ぐためには、口約束ではなく、日を改めて、条件交渉を行い、きちんと業務委託契約書等を取り交わしておくべきでした。

 

4.契約書に盛り込むべき内容は

依頼者とデザイナーとの間で取り交わす業務委託契約書において、特に盛り込んでおくべき契約条件は以下の通りです。

①成果物(制作物)の具体的な内容
・業務委託契約書では「詳細は別途定める」とし、別紙を添付するのが一般的
・テキストだけで表現できないケースでは、ラフ図を添付

②納期
・制作期限はいつまでか
・商品のリリース日が決まっている場合には、依頼者の確認期間も含めて検討し、早め早めに制作にとりかかる

③代金
・制作費は発生するのか
・制作費の具体的な金額
・制作費を支払うタイミング(前払いor納品後)

④『成功報酬』
・何をもって『成功』とするのか?
・(対象商品の)売れた個数、売上高、粗利益など、具体的な経営数値と紐付けて契約書で明確に定義

⑤修正回数
・何回まで修正が可能か明確にする
・とりわけ、デザイナーの立場としては、成果物(制作物)納入後、「イメージと違う」を理由した全面的な修正(やり直し)を防ぐため、上記①のプロセスが重要

5.さいごに

契約書で条件決めをし、また、請求の根拠を明確にしことは、双方にメリットがあります。

コロナ禍もひと段落し、人と人との交流が活発になると、コロナ前にあった「その場のノリ」だけで突っ走った挙げ句のトラブルが多発するものと思われます。
上記については、デザインに関する取引のみならず、すべての請負や業務委託の取引に該当します。
何かのご参考になれば幸いです。

このコラムは協議会メンバーが執筆しています。
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