源泉徴収票って何だろう?

税理士の仕事をしています。荒井と言います。
父から事務所を引き継いで、もう15年経ちます。
なので起業者としては、皆さんの先輩です。

今回は源泉徴収票について、話します。
源泉徴収票は、皆さんご存知のとおりの、こんな書類(画像1)。

これは、所得税の確定申告をする時の基礎資料。
そして、収入金額の証明書としても使用されます。
でもこれには収入以外にも、余計な情報が盛りだくさん。
「配偶者あり」、「家族に障がい者あり」とか、いろいろ読み取れます。
つまり源泉徴収票というのは、このように個人情報がダダ漏れになっている書類なのです。

ところで、ここ(さいたま起業家協議会)は起業者の集まり。
起業とは社員(雇われる側)だった人が、社長(雇う側)になること。
これからは、社員さんたちのプライバシーを知る立場になるんです。
「この人は先月離婚したんだ。」「この人の息子さんは障がい者なのね。」そんな情報が年末調整の度に、(画像2)のような書式に纏められて、社長の元に集まってくる。
そして貴方は、社員の秘密にアクセスし放題になるのです。( ちょっと怖い!? )

 

【1】会社は家族?

社長と社員は親子みたいなもの、会社は家と同じ、昔はそんな雰囲気の会社もありました。
社長の奥さんが経理部長。
奥さんはいつも社員を気にかけていて、社員の家族の健康状態まで把握してる。
そんな空気の会社には、個人情報ダダ漏れも問題にはならないかも知れません。

でも、今は個人主義の時代。
個人情報を秘密にするのが正しいとされる。

それだけではなく、個人情報を会社に知らせたくない、という人は昔から沢山います。

その証拠に、平成14年に税理士会が出した文書(*1)には、

「年末調整制度をみると、(中略)プライバシー保護の面からの批判も少なくない。
(中略) 年末調整を行うか否かは給与所得者の選択にすべきである」と書いてあります。

そうすれば所得税の整理は出来るんです。
ただ、平成14年時点の技術では「給与所得者の多くが確定申告を行うことになる」のは困るね。
「事務負担増大・行政費用の増加」が問題になるね、と言っているに過ぎません。

どんな雰囲気の会社を作りたいかは、社長の考え次第。社長を中心に、社員さんたちとその家族も含めて、大きなグループを作っても良い。
それとは反対に、プライバシー重視の割り切った人間関係を作っても良い。

今の法律では、会社には年末調整をする義務があります。
そうすると、大家族みたいな雰囲気の会社を作るのには都合が良い。
でもどんな集団にも、個人情報を公開したくない、という人はいるはず。
そんな人の希望に合わせるには、そのカギとなるのも源泉徴収票です。

【2】在籍証明

僕がある顧問先さんに行って、そこの社員さんに源泉徴収票を渡した時の話。
僕は「はい、これ」と、A5サイズの紙をヒョイと渡す。
社員さんはその紙を、嬉しそうに受け取って・包んで・持ち帰るのです。
嬉しい理由を聞くと、「この紙は、自分が悪いことしてないって証明書だから」だそうです。(なるほど!)

会社名・社員名・支給額の記載あり、納税額ゼロ。源泉徴収票という名前ではあるが、実質は「源泉徴収してないよ」という証明書。
確定申告をしても、お金が戻ってくることは無い。
僕の目には、単なる紙切れ。
でも、その人にとっては「お守り」。
今はもう、悪い仲間とは付き合っていないよ、という証明書。

収入の証明としてはもっと確実なものがあるのです。
市役所でもらえる「所得証明書」(*3)です。
さらに家族関係も含めた情報が必要なら「課税証明書」(*3)が良いでしょう。

でも、その人には源泉徴収票が必要だったのです。
なぜなら、源泉徴収票には所属する会社名が明記されているから。
「あなた何の仕事してるの?」と聞かれたときに、さっと取り出す「錦の御旗」になるからです。

【3】まとめ

源泉徴収票は、所得税の確定申告書を書く際の基礎資料です。
記載内容は、会社名・社員名・給与支給額・源泉徴収税額、ほか。
「個人情報ダダ漏れ」と批判されることもある書類です。
でもダダ洩れさせずに、給与所得者本人が確定申告することも可能です。
そのためのお膳立ては、もう出来ています。( マイナンバ、スマホ+e-Tax など)

また別の面で見ると、源泉徴収票は収入金額の証明書。
消費者金融とか、結婚相談所とかでも使います。
その人が稼いでいるかの証明、金額だけの証明なら、もっと確実な方法があるのに、です。
なぜ源泉徴収票なのかというと、、、これらの人たちは、正確な収入や所得の額を知りたいのではない。
どんな会社に在籍しているのか、を見たいのでしょう。
そのために、会社名が入った証明書。
「この会社で働いています」という証明書が、必要なのでしょう。

新規起業の新米社長の皆さん、
「僕はこの会社で働いています」と、社員さんに自慢してもらえる会社を作りたいですね。
会社の雰囲気は、家族的なものか、一匹狼の集団か、いろいろあるでしょう。
どんな雰囲気にしたいのか、考えてみるのも楽しいですよ。
あ、ちなみに。僕は今、社員を雇わずに働いています。
将来、家族(息子や娘)が手伝って、後を継いでくれると嬉しいんだけどな。
(税理士事務所の三代目!)
そのためには、子供たちに誇れるような、マットウな税理士事務所でありたいなぁ、と思っています。

*1: 「給与所得課税のあり方について」の7ページより引用。
*2: 画像にある個人名・会社名・金額などの設定は、架空のものです。
*3:さいたま市の場合は、「一部事項証明」「全部事項証明」と指定すると、出てきます。

このコラムは協議会メンバーが執筆しています。
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