効力の強い契約書を自分で作るには

1.はじめに

起業家の方々から
「どうせ作るのなら、効力の強い契約書にして欲しい」
といったご相談も寄せられます。

契約書が活躍するのは、残念ながら、トラブルに巻き込まれたり、そこまでいかなくとも、何らかの揉め事に遭遇した場合という現実もあります。
そのようなシーンで、「契約書にこう書いてありますよね?」と自社に有利な形で主張できた方が良いに決まってますし、自ずと自社に有利な形で決着する可能性が高まりますので、わざわざ手間暇かけて契約書を取り交わしておく価値はここにあると言っても過言ではありません。

そこで、今回は、これまで契約書の専門家として多くの起業家の方々を支援してきた経験から、読者の皆さんがご自身で、効力の強い契約書を作成する際に、どのような点に注意すればよいのか、ポイントを絞って解説します。
何かのご参考になれば幸いです。

 

2.効力の弱い契約書とは

逆からアプローチしてみましょう。
効力の弱い契約書とは、ビジネスの現状、自社の立ち位置が書面上にきちんと落とし込まれていない契約書です。

具体例として、書籍やネット上にある契約書の雛形をそのまま使っているケースが該当します。
雛形を辞書で引いてみると、

> 見本となる型。様式。書式。テンプレート(三省堂国語辞典第8版)

とあります。

ここにあるように、契約書の雛形あくまで見本です。
日頃、読者である起業家の皆さんが、日常業務の中で人生を賭けて取り組まれていることはなど全く反映されていません。
雛形をそのまま使うのは他人の褌で相撲を取るようなもの。
起業とはおおよそ相容れません。

 

3.契約書のひな形を活用した強い契約書の作り方

とはいえ、読者の皆さんがご自身で契約書を作成する際に、一から作文していくことはとても大変なことです。
そこで、契約書の雛形をベースに、一部をカスタマイズしていくのが、強い契約書にしてくための近道です。

ここで一点注意。
ネット上で無料で使える契約書の雛形の中には、一見良さそうでも、体裁が整っていなかったり、用語の定義が曖昧だったり、法的に無効な表現があったりと、酷いものもありますので、書籍等、出所が明確なものを活用してください。

ここからは、起業家が一番取り交わすことの多い業務委託契約書を例にとって、契約書のひな形を活用した強い契約書の作る際の主なチェックポイントを解説していきます。

 

・委託業務の定義

契約書の雛形では甲乙協議の上決定する、となっていることが多い箇所です。
業務委託の場合、契約書に書いてあることそのもののが「商品」です。具体的に記載してください。

「商品」ゆえ、委託業務の定義を曖昧にせず明確にすることは、委託側(お金を払う側)、受託側(お金を貰う側)どちらにとってもメリットのあることです。

契約書本文に書ききれない場合には「詳細は別紙に定める」などとするのも一案です。
正確に、具体的に記載するのがポイントとなります。

 

・損害賠償

こちらについても、契約書の雛形では「甲乙協議の上決定する」となっていることが多いです。

法律(民法など)で相手に請求できる範囲などは定められているものの、委託側と受託側との力関係で決まってしまうケースが多く、読者の起業家の皆さんは、弱い側になってしまうことが大半かと思われます。
弱い側は、損害賠償で泣き寝入りせざるを得ない厳しい状況が散見されています。

泣き寝入りで済むのならいいのですが、損害賠償は高額になりがちなもの。
請求されてしまうと、事業自体が立ちゆかなくなり、諦めて事業を畳まざるを得ない状況になってしまうのも珍しいことではありません。

損害賠償の範囲を狭くしたり、金額を限定した方が有利となることもありますので、特に慎重に検討したい箇所です。

 

・秘密保持義務、個人情報保護、反社会的勢力排除などの一般条項

こちらについては、契約書本文に書いてあることが本当に守れるのか、よく確認する必要があります。

特に秘密保持義務や個人情報保護の条項では、高度なセキュリティ対応が義務付けられているケースがあり、高額な設備投資が必要となることもあります。

契約書の世界では、書かれていることは絶対に守らなければならないという厳しい現実があります。
これらの条項については、両者対等な条件となっていることも多く、また、当たり前のこととして見逃されてしまい、意外な盲点となることもありますので、あえて触れました。

 

4.さいごに

以上、強い契約書を作るためのポイントについて解説しました。

ビジネスの現状や自社の立ち位置は、起業家ご自身ではなかなか分からなかったり、計り知れないことも多いです。
契約書の作成は、事業計画書の作成に似ています。
甘めの自己評価をしてしまうと、取り返しがつかないことになってしまうおそれもあります。

起業家仲間に相談したり、場合によっては、専門家に相談するなど、第三者の力を借りることが、強い契約書を作る近道ともいえます。

 

このコラムは協議会メンバーが執筆しています。
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