大口の取引先から基本契約書が送られてきたときの対処法
1.はじめに
「大口の取引が決まり、相手から『基本契約書』なるものが送られてきて、明らかに自社に不利な内容が書かれているのだけれど、これってそのままハンコを押すしかないのか?」
といった質問をいただくことがしばしばあります。
大手企業と大口の取引が決まって、ウキウキ気分の中、現実に引き戻されるのがこの基本契約です。
基本契約書に出会っても、起業家の皆さんが冷静に対応できるよう、解説します。
2.基本契約書とは
まず、基本契約書とは、専門書によれば以下の通りとされています。
例えば、製造業者が原材料の仕入れを行う場合のように、特定の当事者間において反復・継続的な取引を行う場合、個々の取引のたびに契約書を交わすのは非常に煩雑です。
そこで、個々の取引に共通の取引条件等について契約書を交わしておくことにより、個別取引の際の事務処理の手間を省くことが取引社会で広く行われています。
この共通事項についての契約を「基本契約」といいます。
『改訂版・契約用語使い分け辞典』日本組織内弁護士協会監修(新日本法規)
平たく言えば、
「これから何回も繰り返される取引で、毎回毎回、契約書を作って製本テープを貼ったり、ハンコを押したりするのは面倒くさいよね?」
「なので、ガッツリした契約書を一本取り交わし、個々の取引は、注文書(基本契約書との対比では個別契約書といいます)のペライチ(最近は電子契約も多い)でやりましょう!」
といったイメージです。
この、基本契約書と個別契約書の二段構えでの契約書の取り交わし方法は、上記引用の通り「よくあること」といえます。
また、「共通事項の契約」であることから、契約書を作成した側に有利な内容が書かれているケースが大半です。
3.基本契約書に不利な内容が書かれていた場合には
基本契約書の契約期間は以下の通りとなっているケースが大半です。
本契約の有効期間は、本契約締結の日から1年間とする。
ただし、期間満了日の1か月前までに契約当事者のいずれかから別段の申出がないときは、自動的に同条件で1年間更新されるものとし、以降も同様とする。
「ただし」以降が非常にくせ者です。
自社にとって不利な内容が書かれていて、修正等の対応をとらず「丸飲み」でハンコを押してしまうと、将来にわたりずっと縛られることとなってしまいます。
一度不利な契約条件に縛られてしまうと、それを覆すのは容易ではありません。
とりわけ、特に①~⑥の箇所については、業績悪化の原因となったり、事業展開の足かせとなってしまうこともあり、「起業家の後悔5選」にも挙げられると言っても過言は無い(弊所調べ)といえますので、相手から送られてきた基本契約書を読んでみて内容がよく分からなかったり、心配な時には専門家に相談する等して慎重な対応をとってください。
- ①損害賠償
- ②違約金
- ③契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)
- ④仕入先・取引先・販売先の制限・限定
- ⑤契約期間の縛り
- ⑥支払条件(支払サイトは適切か)
4.「丸飲み」せざるを得ない場合には
相手とのパワーバランスによっては、経営判断として「丸飲み」せざるを得ないケースも、ままあろうかと思われます。
その場合はどうしたらよいのか?諦めるしかないのか?というご質問もいただきます。
一つの考え方をご紹介します。
基本契約において、個別契約との優劣について、一般的には、以下の通り記載されています。
本基本契約の定めは、個別契約に対して共通に適用されるものとする。ただし、個別契約においては、本契約と異なる定めをすることができるものとし、本契約と個別契約の内容が異なる場合、個別契約の規定が本契約に優先するものとする。
つまり、優劣としては「個別契約書>基本契約書」ということですので、基本契約書の不利な条件は、個別契約書で上書き(覆す)できる余地は残されています。
なお、これとは逆に、「個別契約書<基本契約書」となっているパターンもまれにありますので、注意が必要です。
全ての個別契約書での上書きは無理だとしても、「ここぞ」という時には、個別契約書の取り交わしの段階で交渉してみるというオプションも検討してみてください。
繰り返しにはなりますが、基本契約書に不利な内容がある場合には、基本契約書の取り交わしの段階で修正等をしておくのが最善の対応となります。
5.さいごに
今回は、大口の取引先から基本契約書約書が送られてきたときの対処法について、個別契約書(注文書等)との対比の中で解説してみました。
起業家の皆さんの何かのご参考になれば幸いです。