コロナ禍というビジネス変革のヒント
新型コロナウィルス(COVID-19:以下新型コロナと総称)が2019年12月中国武漢にて初症例が報告された当初は現在のような全世界を巻き込む感染症拡大へ繋がるとは誰もが予想していませんでした。
世界経済をも変える感染拡大により大きくビジネスモデルも変更を余儀なくされ、これまでの当たり前の商業活動ができない反面新たなビジネスの可能性が見えてきたりもしています。
そこで弊社が医療機器メーカー(医療機器の輸出入販売、商品開発企画、資格を生かした申請書代行)として試行錯誤した体験と気づきを以下まとめました。
- これまで新製品提案やメーカー主導のマーケテイングは通用しない。
- 想いもしなかった市場は目の前にある。
- 変革期のビジネスは全てスピードが物を言う。
- 最後は情報が全てを決める!
1.これまで新製品提案やメーカー主導のマーケテイングは通用しない。
通常新製品提案などは事前市場調査も含め企業経営者としてアンテナを張り巡らして代理店への提案を行います。
しかし病院を訪ねる事も出来ず、病院の目前の逼迫した新型コロナ対策業務優先から新製品紹介なんて二の次となり、まったく進展なしの状態が2020年1月~3月まで続きました。
通常手術も緊急以外は延期される始末で予定したビジネスは全く進みません。
そんな矢先オーストリアの代理店から欧州のCOVID-19 感染拡大状況逼迫においてPPE(Personal Protect Equipment)すなわちマスク、防護服、フェースシールド、ゴーグルなどの感染防護対策消耗品の要求がありました。
この対応することにより弊社にとっての新たなビジネスの道が開けました。
これが第一の起点です。
その後国内感染者増大や緊急事態宣言発令などにより2020年4月~6月にかけて国内各医療機関向けのPPE輸入が中国、ベトナムから開始され、医療現場からの悲痛な要求を最大限早く満たすべく日夜奮闘をした訳です。
それでも上期は営業ベースで赤字となりましたが、最小限に出血を抑えたことが通期でのV字回復と繋がりました。
その過程で2番目の新たな市場が見えてきました。
これまでの病院用PPEとは無縁の市場が出てきた訳です。
具体的例をお話しします。
2.想いもしなかった市場は目の前にある。
教育現場へのフェースシールド供給
これはある学校法人からの問い合わせが発端でした。
新型コロナ感染が生じる前の
「平成29年に文部科学省により示された学習指導要綱のグループワーク学習(アクティブラーニング※1)」
により生徒同士のディスカッションが重要なカリキュラムとなってきていました。
(※1) このアクティブラーニングは2020年度学習要綱では言葉を変えて「主体的・対話的で深い学び」
となっています。
2020年度から大学入学試験が大きく変わり(正確には2021年1月に新しい大学入試制度の導入が開始。)従来のセンター試験との違いはこれまでのマークシート方式の試験に加えて思考力+判断力+表現力の3要素が加わった問題が出るということです。
これを夏場から受験時期までにやる訳ですが、新型コロナという予期せぬ禍により受験生にとってはこれこそが3密となるので、フェースシールドが登場という訳です。
そうなると大学受験と関りを持つところが全て市場となり対象は全国の国公立高校、私立高校、予備校、学習塾、幼稚園から小学校や中学校全生徒が対象となる訳です。
これまで全く縁もゆかりもなかった市場にフェースシールドという商品が必要不可欠な商品となるということが起こったわけです。
新たな市場ができここにビジネスチャンスがあるということです。
冠婚葬祭領域
これもこれまで全く縁のない市場でしたが、防護服セットの要求がある冠婚葬祭の企業か
ら舞い込みました。
新型コロナは感染していても無症状のままということもある、未だに得体のしれない感染症ウィルスです。
コロナと診断されないで亡くなった人でも新型コロナに感染している可能性もあり、葬儀の際に感染者から葬儀関連業務の従業員を守る意味でお葬式やその処理には万全の対策を取りたいという要望でした。
黒い防護服を特注するという話も舞い込みました。
ということは全国の冠婚葬祭業者や企業が対象となり、これも新たな市場が開かれたということになります。
非接触体温計の市場拡大
新型コロナ感染拡大の伴い世界中のTVがガンタイプの非接触体温計で体温測定を行い発熱者と平熱者をセレクトするという光景がガンガン連日のように放映されたことは記憶に新しいと思います。
すっかり定着した体温測定=がんタイプ非接触体温計と言う絵が世界中の人に刷り込まれたわけです。
しかしながら、2020年10月まではこのガンタイプ非接触体温計と称されているものは日本においては医療機器認証を取得しているものは無く、全て温度計として中国から輸入して販売している状況でした。
この中である代理店様から許認可を取得したガンタイプ非接触体温計の要望があり、市場状況を調べて愕然とした訳です。
あれ程体温、体温と言いながら公共施設や一部病院や行政官庁までも温度計を使用して体温を測りセレクトしているという状況であった訳です。
そして経営者である私はここに目を付けました。
「正式に認証を持つ非接触ガンタイプタ体温計を上市できれば正式な体温計としての足場を築ける!」
と考えたわけです。
弊社は医療機器の専門会社でありこのガンタイプ非接触体温計を7月に申請準備を始め8月に申請書提出し10月に認証証取得と言うこれまでにない異常な速さで認証取得をしました。
「NOZOMI」というブランドをつけて販売を開始しました。
2021年7月までの累計出荷台数は10万本を超えています。
これにより会社は10月には完全にV字回復をして、そしてこれを起点としてマスク国内生産で大いにその会社イメージを上げたI 社からのOEM 注文が舞い込み、その後I社ブランドで長崎のTV通販最大手の専用モデルまで発売することとなりました。
ちなみに非接触体温計の市場は全世界で新型コロナ前後で約60%伸びています(※2)。
これにより大手家電量販屋HCなどやはり直接縁がなかった市場が開けたという訳です。
ここで3つ目のテーマが出てきます。
(※2) 2020年9月17日株式会社グローバルインフォメーション プレスリリース
3.変革期のビジネスは全てスピード物を言う
とにかく毎日市場状況や求められる商品情報が目まぐるしく変わるときには情報をキャッチして即判断して最短スピードで事をなすという事が求められます。
非接触体温計は管理医療機器と言って医療機器ClassⅡの商品です。
通常この認証には最低でも4か月から7か月はかかるものと相場は決まっているのですが、今回はこれを約2か月で取得したという事がV字回復に大きく寄与しました。
これは企業も持てる力をそこに一転集中し、全社員がその方向性へ向かって突き進んだ結果だと思います。
このようにこれまで全く関連性の無かった領域にも新型コロナという現象が新たな道を開き主流ができる、これを今回目の当たりにした訳です。
これまで見てきたようにきっかけは全て外部からの情報でした。ここで最後のテーマへ繋がります。
4.最後は情報が全てを決める!
PPEも非接触体温計も全て外部からの顧客要求からスタートした訳です。
事業には受注事業と見込み事業があります。
本来は自社の販売力で在庫を持ち業務拡大してゆく見込み事業を伸ばしてゆくのが王道かと思います。
しかし今般新型コロナ感染拡大のような緊急時にはむしろ顧客からくる受注事業がとても大切となります。
この一年弊社はここでV字回復し過去最高売上、最高利益を計上することができました。
勿論これから【ポストコロナ】を考えると見込事業への布石を打つタイニングであり、既には着々と打っています。
まとめますと、こういう変革期のビジネスへの対応として
- 今必要な顧客の困りごとを解決できる商材やサービス、これをいち早く察知してビジネス方向を切り替える。
それを全社員へ徹底してベクトルを合わせ邁進する。
【普段から情報ネットワーク構築をすることと全社一致のベクトル合わせ】 - 既存市場へのこだわりを無くして新しい市場を受け入れるだけの柔軟さを持つ。
【経営者として頭を柔らかく】
弊社はある意味特殊な許認可の元での業務が中心となりますのでどこまで参考になるかわかりませんが、考え方は経営者として共通するものとして理解していただけると思います。